こんにちは。
CASANOVA&COの野口です。
本日も昨日に続き、WONDER ROOMについて。
今日ご紹介する3つの生地は、今シーズン初めて登場するものとなります。
それぞれ、
・EGG
・MARS
・SEASCAPE
と名前のついたものたち。
今日もちょっと長めになっちゃうかもだけど、それぞれご紹介させてください。
まずは、EGG。
【EGG】
世界的なメゾンを納得させた着心地を実現する生地を創業 70 年の工場で開発。
機械は海外から輸入した機械をベースに、吊り編みとジャガード編みの良さを合わせ、高密度で編むことが出来る機械を独自開発。
本来裏毛では出来ないジャガード編みに由来する技術を着心地へアプローチ。唯一無二の表現である。
冬の寒い季節に毎日着られる、包まれている様な暖かさ、着て癒される感覚を表現。
洗濯耐性を持ち合わせる生地は、表に糸の段階で特殊加工を施すことにより、防風性を備えた。
卵を温めるような温もりを感じ、蒙昧から意識への鋭利になる感覚を味わって欲しい。
※ブランド公式ステイトメントから引用
EGG。直訳すると、もちろん”卵”。
僕たち人間が口にする無精卵というよりは、有精卵のイメージね。
卵を産んだ親鳥は、自分の体で包み込むようにして卵を温め、孵化する時を待つ。
まるでその卵を温めるかのような、柔らかく、優しい温もりをEGGは感じさせてくれます。
WONDER ROOMのブランド内では、WHALEと同じくらい秋冬に適した素材感だと思います。
組織としては、”ジャガード裏毛”。
...勘付いた方もいらっしゃるかもしれませんね。
このEGGはFRIENDの派生系。
いや、FRIENDがEGGの派生系、と考えた方が適切かもしれません。
一体どういうことか。
実は、圍さんが初めて製品化できるレベルで開発した”ジャガード裏毛”こそが、このEGG。
FRIENDよりもEGGが先なんです。
今から1年以上前の25SSの展示会の時、FRIENDのことを説明していた圍さんが「実はFRIENDの分厚いバージョンみたいなのがあるんですよ」とサラッと話していたのですが、それがこのEGG。
つまり、昨日FRIENDについて書いたような、パイルから着想を得てジャガード編み機を用いた特殊な裏毛構造は、EGGを通してたどり着いたもの。
そしてそのEGGをより通年向けの素材として応用したのがFRIENDとなります。
では、EGGとFRIENDは何が違うのか。
より違いがわかりやすいのは、裏側。
アイボリーの方が昨日ご紹介したFRIENDの裏で、ブラックの方がEGGの裏。
なんとなく違いがわかりますかね?
FRIENDの方が裏の糸の飛ぶ距離が短く、EGGはFRIENDよりも大きく糸が飛ぶ。
これにより、生地の内側、つまり体側により多くの空気の層を持つことになるので、魔法瓶のような理論で保温力が向上する。
秋冬に適したものというのはこういう部分から。
ただし、裏で糸が大きく飛ぶということは、その分引っかかりやすい状況でもあるということになる。
もし仮に引っかかって糸が切れてしまったとしても、生地の密度と設計の緻密さゆえ同じところに糸を差し込んであげれば問題ないと圍さんは言いますが、それでも引っ掛かりのリスクを考慮して、FRIENDと比べて裏糸が1本多く設計されています。
簡潔に言うと、EGGの裏糸が3本(三子撚り)、FRIENDの裏糸が2本(双糸)になっているということ。
厳密なことを言えば開発順がEGG→FRIENDなので、EGGをベースにFRIENDでは保温性を重視する必要がないため糸の跳ぶ距離を短くし、その分裏糸の引っ掛かりのリスクが軽減するので三子撚りから双糸にして糸の本数を抑えることで生地としての肉感を抑えている、ということ。
すんごい専門的でごめんなさい。
そしてもうなんとなく感じていただけているかもしれませんが、圍さんのことなので、毎度のことながらこのEGGやFRIENDにたどり着くまでには膨大なテストサンプルが存在します。
糸質を変えてみたり、裏糸の毛足をもっと長く出してみたり、、、
数年前に和歌山県で発生した水害によって、それまでに製作していたサンプルなどが水没してしまったものもあったようですが、もしそのような災害がなかったらCASANOVA&COのフロア全てを生地開発のテストサンプルで埋め尽くすくらいなら余裕だと仰っていました。
WONDER ROOMの洋服ではそれが当たり前なんだけど、それだけの膨大な時間とコストを投じて日々研究開発を進めているということはみなさんにも知っておいていただきたいです。
その分、洋服にラブが生まれるからね。
話をEGGに戻します。
これはEGGの表面。
FRIENDやWHALEに比較すると少し光沢があるのが分かると思います。
これは、表の糸にシルケット加工が施されているから。
シルケット加工とは、一般的には安価な糸に施すことが多く、綺麗な糸に見せるための加工として考えられています。
が、もちろん圍さんは安価な糸を綺麗に見せるためにシルケットをしているわけではない。
EGGで使用される上糸は、糸の状態で糸の奥に馴染むまで連続的にシルケット加工を行う”レンシル”と呼ばれるシルケットなのですが、これを行うことによって表面の風合いを整え、生地の防風性を上げる狙いもあるそうです。
イメージ的には、バブアーのオイルドコットンのように、糸の隙間を埋めてしまう感覚の防風性。
シルケットに対してこのような考え方は新鮮でした。
これによって、表も裏も防寒性に長けた仕上がりになり、まさに体を包み込んで温めてくれる。
コットン100で構成される裏毛のナチュラルな温かみを感じてください。
<EGG使用の店頭展開アイテム>
・double pocket hoodie
・crewneck sweat shirt
・sweat slacks
【MARS】
世界的なメゾンを納得させた着心地を実現する生地を創業 70 年の工場で開発。
ニットの様な表面、裏毛の様な表面が、火星の表面と、地球の砂漠なのか。新しい表面感をテーマに生まれた意欲作。
洗濯耐性を備えつつ、ニットや既存のスウェットでは表現できない柄を実現。
この生地専用の機械を開発し、裏毛の技術をベースに、ニット、ダブルフェイスの考え方を応用した特殊な技術。
表の糸はウォッシャブルウールとオリジナルのコットンを配合。裏の糸と中の糸はコットン 100%にしており、肌触りは抜群。新感覚。
※ブランド公式ステイトメントから引用
再三WONDER ROOMは”天竺・裏毛”のブランドだ、とお話ししてきましたが、果たしてこのMARSは素直にそこに従っていいものなのか。
自分でもまだ答えは出ていません。
ただ、”ニットのようなテクスチャと動き方でありながら、天竺のような肌あたりで、裏毛の考え方に基づく”洋服だということは感じました。
でもだからこそ、このMARSがどこに属するものなのか、どんどんわからなくなる。
未知との遭遇。
ただ、圍さんにこのMARSの着想源を聞くと、なぜこのような生地が生まれたのかとてもすっきりしました。
スタート地点にあったのは、獣毛素材のニットのネガティブイメージ。
なんとなく漠然としたイメージで、ウールやヤクのような獣毛素材のニット製品には、水洗いできないとか、チクチクするといったネガティブなイメージがある方も多いと思います。
確かに水洗いできるとご紹介する獣毛ニットも存在しますが、それらは水洗いができるように加工されているか、寸法変化や毛玉などのリスクを飲み込んだ上で水洗いするのか、はたまたその変化を踏まえた上での新品の設計になっているのかの3パターンが多いように思います。
確かに信じられない位ほど高密度に編み上げたカシミアとかで、洗っても何も起こらないニットもたまーにありますが、こういうのは本当に特殊事例。
チクチク問題に関しても、僕は鈍感な人間なのでチクチクに強い鉄壁の肌を持つ無問題側なのですが、体質的にどれだけ原毛の細いウールやカシミヤでもチクチクカイカイしてしまう方がいるということは、もちろん想像できる。
そのような方にとっては、肌に触れる面にウールやカシミヤが使われているだけでもうNG。
その服がかっこいいかどうかとかの次元ではなく、選択肢から外れてしまう。
じゃあ圍さんはこれを解決するために何を考えたか。
まず、肌にあたる部分をコットン100%にしてしまえば、チクチク問題は解決。
でも、普通に肌にあたる部分をコットン100%にしたニットは、ただのコットンニットじゃんって話。
そこで、表面にウールを見せるように配置して、裏にはコットン。
つまり、2層構造。
ダブルフェイスということです。
となると、接結という技法が浮かんでくる。
接結というのは、超簡単に言うと、表と裏を”接結糸”という”繋ぐための糸”で繋ぎ合わせる技法。
ただ、この接結、表と裏を接結糸で繋げるからには、表面にドット柄のように規則的にポツポツと接結糸の存在が出てきてしまい、生地の表情を損ねてしまう。
、、、こうして圍さんの長い旅がまた始まりました。笑
接結の機械をベースに、天竺やインレーの構造原理を応用して、改造に改造を重ねる。
そうして出来上がったMARS専用機は、もうもはや接結は出来ない状態。笑
マシンの外側だけ接結の機械で、中身はもう何もかもが違う。
トヨタの車を改造して、メルセデスベンツのエンジンを積んで、内装はポルシェにして、、、みたいなイメージ。
もはやそれはトヨタ車じゃないですからね。
だから僕もその機械がなぜそうなったのかについてはうまく説明がつかないところがありますが、とにかく目指したものに対してたどり着いたのがMARS専用機。
これがMARSの表面。
表の糸はウールとコットンのブレンド。
対して裏側。
こちらは当初の着想通りコットン100%。
そしてこのジグザグした表情も、ただの風合いでだけではなくて、斜行止めとしての意味合いも持つ。
洗った時に不具合が起きないように構造自体もきちんと設計されている。
編みの世界でも、全く見たことのないこれだけ新しい生地を開発できる余白があるのだと教えてくれた、とても意味のある生地。
クローゼットの中においても、ニットのポジションでも裏毛のポジションでも考えることができるユーティリティープレーヤー。
こういう選手が一人いるとチームは円滑に動き出しますからね。
MARS、皆様の中でポジションを定義してあげてください。
<MARS使用の店頭展開アイテム>
・drivers
・neck warmer
【SEASCAPE】
100 年以上歴史を持つ工場で、一子相伝で受け継がれた機械と技術でのみ表現できる生地。
アメリカでオーガニック栽培された品質保証のシリアルナンバー入りのアルティメイトピマの綿花を輸入し、オリジナルの糸を制作。
高級感と共に撚りの強さ、糸の太さに拘った。
薄くて透けない、シャリ感がありつつ優しい生地を目指す為に、古い機械を使いながら特殊な編み方を開発。
それにより実現したシャリ感のある手触りとヌメり感のある肌触りを体感して欲しい。
それは、昔と変わらない歴史の中の天竺を今、味わえる貴重な生地である。
※ブランド公式ステイトメントから引用
今回の大トリ、SEASCAPE。
新たな生地のラインナップをご紹介します、と銘打ったのですが、すみません、このSEASCAPEは25SSでも実は存在していました。
その当時は、WHALEの枠組みの中で、WHALEの天竺として。
ただ、どうしてもWHALEの裏毛の方にフォーカスせざるを得ず、陰に隠れてしまった吊り天竺。
「アルティメイトピマを超度詰した鬼マニアックカットソー生地」という1文だけでブログに登場しただけなのに、感じ取って頂いた皆様の手元に速攻で旅立っていった25SSでしたが、今回は【SEASCAPE】という名前を授かり改めて登場します。
このSEASCAPE、とんでもなくヤバい。
なにが、なんでやばいのかは、触れていただき着ていただかないと、これは伝わらない。
肉厚すぎないのに、とんでもない密度で突っ込まれた糸量による重厚感。
程よくカラッとした糸質でありながら、糸の内部にたっっぷりと油分が含まれているようなしなやかさ。
それでいてしっかりとヌメりも感じるタッチ。
日常の動きの中で体に伝わるキックバック。
もうとにかく、すごい。
原料は、シリアルナンバーが与えられるアルティメイトピマ。
これを、WHALEと同じく、ワタの段階で放置プレイ。笑
そこからSEASCAPE用にオリジナルで紡績を行い、”45号機”で鬼のように度詰。
もうこの文章だけで絶品天竺なのは伝わるでしょ?笑
25SSのタイミングでは長袖Tしか展開がありませんでしたが、今回は半袖Tに加えて、パンツも登場。
パンツも、ぱっと見普通のイージーパンツに見えるけど、履いたら異次元ですよ。
SEASCAPEはWONDER ROOMの中でも最も目立ちにくいシリーズなんじゃないかと思うけど、これは見る価値のある天竺です。
写真じゃ「確かに高密度っぽいなぁ」くらいしか伝わらないけど、これは実際に触れるのを楽しみにしていてください。
<SEASCAPE使用の店頭展開アイテム>
・l/s dress shirt
・s/s dress shirt
・room slacks
これで、25AWのWONDER ROOMの生地のご紹介は以上となります。
ただ、当たり前だけど僕たちがお伝えしたいことは、「すごい生地である」ということではなくて、「豊かな洋服である」ということ。
ブログではその大前提としての生地のことをお伝えするので精一杯だったので、これだけ尖った生地たちが洋服になり優しさを帯びるとはどういうことなのかは、ぜひ店頭で一緒に対話させてください。
ただ、洋服の姿を一つも見せないのは僕が尖りすぎちゃってるので、金曜日にはそれぞれのアイテムの写真をインスタグラムに掲載予定です。
楽しみにお待ちいただけたら幸いです。