こんにちは。
CASANOVA&COの野口です。
本日は、昨日の続きとなる後編です。
それでは。
QUESTION3
【洋服のデザインについて】
野口:先ほど、「生地が強すぎる」からこそのデザイン、というお話がありましたが、WONDER ROOMの洋服のデザインやパターン、縫製などについて意識した点を教えてください。
松本:さっきも話したんですけど、僕たちは服だけを見て服をデザインしているわけではないんですよ。
その中でまず、”時と戦う”ってのは僕の中でずーっとキーワードとしてあって。
例えば、Yves Saint Laurentがつくったものを現代の人が見てもカッコいいって思うことがあるわけで。
そういうものをつくっていかなきゃいけない。
野口:はい。はい。
松本:実はWHALEは生産が安定しないんですよ。工場のおっちゃんが”いい感じ”で。
となると、僕たちは生産が安定しないということを肯定しないといけないんですよ。
それを、面白がってあげなきゃダメなんです。
野口:ほぉー、なるほどですね。
松本:だってその職人の腕がないと、この生地できないんで。
だからこの職人を肯定するシステムがないといけなくて、例えば僕が前やってたブランドの中にこの生地を入れてしまうとダメなんです。
納期が間に合わないから。
野口:そういうことですね。
松本:じゃあそういうふうにしてまでつくっている生地を、どうデザインしていくのか。
それは、シンプルな中にある微差の部分がすごく大事になると思っていて。
簡単に言えば、”残っていくにふさわしいもの”って感じですかね。それがデザインの大きな肝っすね。
野口:はい。はい。
松本:デザインを足していくことはとても簡単なんですよ。みんな足したがると思いますし。
でも、どうシンプルで美しくあるかってのがWONDER ROOMの中ではすごい大事。
一見デザインされてないように見えて、めちゃめちゃデザインされてるのがWONDER ROOMのデザインだと思います。
計算されてないところなんてないですよね?圍くん。
圍:縫製一つをとっても、一番肌あたりを邪魔しないものにするために試行錯誤したりして。
できる限り生地が生きるような仕様を目指して簡素化したイメージです。
松本:Sweat Slacksの脇線ひとつをとっても、前と後ろがどういう分量で整ってるのかってところとかも、パタンナーと話し合いながら。
圍:パリに連絡するんだよね。
松本:そうそうそう。
野口:そうだ、パタンナーの方はパリ在住だって展示会の時に仰ってましたね。
松本:彼とかは向こうでデザイナーの下で働いているキャリアも長いんで、日本人のパタンナーには持ってない感覚をやっぱ持ってるんすよ。
僕はそのパタンナーがいいと思ってるんです。
野口:そうなんですねー。
松本:で、その先の修正の部分に関しては、とにかく圍くんと話します。
「ここは何mmでいこう」とか「100回洗った後こうなって欲しいんですけど、圍くんどう思いますか?」とか。
天竺とか裏毛を研究してる歴の長い圍くんの感じを僕が理解しながら、僕の感覚を伝えながらって作業で、縫製仕様に関してはひとつひとつ決めてますね。
圍:そうっすね。
松本:パターンの分量とかに関しては、まずかっこいいことが第一だと思ってるんで。
で、あとは、時代に左右されない。
基本的に日本人にハマるようにつくっているんですけど、外国人の人が着ても違うハマり方をする。
そういう意味では、いい余白をつくれたかなって思ってます。
野口:なるほどですね。
実際WONDER ROOMの洋服を手に取って見ると特徴的な袖付けや分量のコントロールは印象的ですよね。
この辺りは、ぜひ店頭でじっくりお話いただけたらと思います。
松本:めちゃくちゃ話長くなっちゃいますよ?大丈夫ですかね?笑
圍:みなさん話長すぎて帰っちゃうんじゃないですか?笑
QUESTION4
【4つのシリーズ、それぞれの生地について】
野口:デビューとなる今回、WONDER ROOMからは4つのシリーズが用意されています。
このそれぞれで使用されている生地について、圍さんの視点から想いやストーリーを教えていただければと思います。
圍:はい。じゃあまず”WHALE”。
公式の文章にある45号機という吊り編み機を使用しているのですが、もちろん古い機械なんですよ。
ただ、これより古い機械があるのかってことには賛否あると思いますし、同じ機械をどこかが持ってるって可能性もゼロではないかもしれない。
これは大前提としてあります。
野口:はい。
圍:でもじゃあこの45号機が何が違うのかというと、この機械自体を自分用に調整し直して、限界まで度目を詰めれるようにしてあるんです。
針も昔のままなんですけど、いじくりまわして調整しまくって、度目やゲージや針を落とすスピードを固定しちゃってるんです。
だから、もう他のゲージは絶対編めないんですよ。
野口:はぁー、なるほど!
圍:だから、この”WHALE”を作ってる職人に「もうちょっとこういう生地つくってみて」って言っても無理なんですよ。笑
一同:(笑)
松本:いやホント面白い!最高っすよね。笑
世の中はその機械を使って効率化しようという方向に向かっているのに、その人は突き詰めれば突き詰めるほどどんどん遅くなっていって。笑
だから”WHALE”は、1時間かけても30cmしか織れない。
でもそれが、その職人さんの考え方で追求の仕方だから、それで正解なんですよ。
圍:普通の吊り編み機を扱ってる工場さんは、商社さんとかからの要望もあるので、「もうちょっとピッチをこういうふうにしてほしいです」とかってのに対応できなきゃいけないんですよ。
言い方悪いけど、伝えやすくすると”常に中途半端な状態”に機械を設定してるんですよ。
どんな要望にも応えられるように。
でも、”WHALE”をやってる職人さんは、もう限界まで調整しまくってるから元に戻せないんですよ。
だから、あれだけのものがつくれて、誰も真似できないって言い切れるんですよ。
ただ、針も当時のままのものを使ってて、あと10本くらいしかストックがないんですよ。
吊り編み機で針が壊れる時は、大体8本ペースくらいで一気に壊れるので、多分次がラストなんですよ。
野口:え、8本も一気に折れるんですか!?
圍:そう、1本壊れて1本替えるなんてレベルじゃなくて、1本壊れたら引っ張られて連鎖して壊れちゃうんで。
それくらいギリギリの状態で動いてるんです。
さっき話した通り30cmしか編めないし、それに糸飛びが入ってきたり、針が外れかけてちょっと緩い部分が出ようもんなら、もう一回糸に戻して綿に戻して織り直すってことをやっちゃう職人さんだから、、、
だから他の仕事も受けないし、受けれないし。そういう感じの人なんです。
野口:いや、凄すぎますね。。。
圍:なので、まとめると、”WHALE”の特徴としては、ゲージとインチと針を落とすスピード。
そこに職人の技が入ってきてる。
彼の場合は、その技がないとつくれないものを扱ってるから、一子相伝で息子にだけその技術を教えているんですよ。
松本:そもそもなんですけど、全てのシリーズにおいて、表・中・裏で糸を全部変えてるじゃないですか。
圍:はい。変えてます。
松本:他のブランドは基本的に一緒だと思うんですけど。
圍:一般的には表と裏が一緒で、中糸に斜行しない糸を入れているんですよ。
基本的に中糸は表にも裏にも影響しないって言われているのでみんなそれを使ってるんですけど、ものを構成している以上は影響しないってのはウソになると思ってるので。
野口:なるほど、使ってる以上はってことですね。
圍:そうそうそう。だからそこも僕はつくりますよって話です。
…かなり”WHALE”に関しては説明を端折っちゃったんですけど、まだまだ話せますけどこんなもんで大丈夫ですか?笑
野口:ありがとうございます。ついていくので精一杯です。笑
次は”FRIEND”に関しても教えてください。
圍:”FRIEND”の方は、実は厚みが厚いものと薄いものがありまして、今回の”FRIEND”は薄い方になります。
基本的に薄い裏毛の生地というのは収縮してしまうので、物性が安定しないというデメリットがあるんです。
だから、本来はある程度ゴツくしたいんです、基本的には。
野口:へぇー、そうなんですね。
圍:でも、年中通して着るところを考えた時にできるだけ薄い方がいい。
でもやっぱり薄すぎると安定しない、ってところのせめぎ合いで。
そこのバランスを追求したのが”FRIEND”ですね。
野口:なるほどなるほど。
圍:そこを追求するために、綿のブレンドから紡績→撚糸で生地をつくってみて「まだまだ足りないな」ってなって、また綿のブレンドの段階に戻る。
その途中で度目を詰めてもどうにもならないようなことが出てきたら、今度は「双糸にしてみよう」とか「三っ子にしてみよう」とか、そういうことを全パターンやりました。
そんな行ったり来たりを2年半くらいずっと繰り返してきてたので、ようやく出来上がったって感じですね。
なので、機械自体も特殊なんですけど、そこに一番時間がかかってますね。
野口:なるほど。
その機械の話で言うと、この”FRIEND”ではジャガード編み機を使っているじゃないですか。
僕はジャガード編み機って柄を出すためのものだと思ってたんですけど、”FRIEND”では裏の糸の飛ばし方をコントロールするために使っていると伺ってます。
そもそも、このようなジャガードの使い方って一般的にあるものなんですか?
圍:一般的には無いでしょうね。笑
”FRIEND”の機械をつくったところも柄出し用につくってて。
”FRIEND”を試行錯誤しているときに、糸の紡績撚糸は納得いくものができて、それでいいよねって感じで生地をつくったんですけど、もうちょっと強度と肌あたりが足りなかった。
ってなった時に、知り合いにタオル屋さんがいて、それがヒントになりました。
タオルの編み方を参考にしてジャガード編み機を使って色々トライしてみて、裏の糸の飛ばし方をコントロールすればってことに気づいてからは自然な流れでしたね。
野口:なるほど、タオルを着想にしていたんですね!
続いて”SHADOW”についても教えてください。
圍:もともとスラブってものは、工程を飛ばして雑味が入ってもいいよねって考え方で生まれたものなんですよ。
野口:そうなんですね。
圍:なので、もともとムラのある安い糸でやることが多いんですよ。さらにそれを綺麗にする工程を飛ばしちゃってるからああいう雑味とか凹凸感が出る。
じゃあ、最高級の綿花で同じことをやったらどうなるかというと、普通にそこそこ綺麗な糸ができちゃう。
そこで、良い原料でスラブを作るために、紡績の段階で凹凸感を出せるような機械を独自でつくってしまって、自分たちが納得できるスラブ糸を作りました。
野口:機械をつくってしまったんですね。笑
圍:なぜスラブが良いかというと、凹凸感が出るので、汗をかいた時にベタっと張り付かないんですよね。肌離れが良くなる。
それを自分たちが好きな綿でやれるようにしたかったからって感じですね。
それで度目で詰めてることによって、キックバックと表情と肉感のモチッとしたタッチを出せているっていう。
野口:なるほどー。
その凹凸を出す機械というのは、どう動いてるんんですか?
圍:…ちょっとそこは言えないんですよ。笑
すみません。笑
野口:そうなんですね。笑
でも、それくらい特殊なことをやっているということですね。笑
圍:そうですね。笑
野口:じゃあ最後に”WAFFLE”についても教えてください。
圍:”WAFFLE”は、なんて言ったらいんだろうなぁ。
好きすぎて。ワッフルが。僕。笑
一同:(笑)
圍:好きすぎて、ほぼほぼの糸で編んだことあるんですよ。コットン100%なら。
野口:え!?いろんな原綿の種類でってことですか!?
圍:はい。笑
で、いろんな編み方も試しました。
結果として、糸質で強度とキックバックを持たせることがベストだということに気が付きました。
野口:ほぉ、そうなんですね。
圍:”WAFFLE”に関しても、編んでいる機械はオリジナルで作ったものなんですけど、これは本気でやろうと思えば1年かければ多分出来ちゃう。
ただ、絶対に真似できないだろうと思うのは、糸の質にキックバックを持たせるってことで、ワッフルが伸びた時に伸び切らずに自分の体に戻ってくるようにしていること。
紡績や撚糸においてもさまざまなテストを繰り返して、「これがベストだ!」ってことをやってるのが”WAFFLE”です。
松本:もう何言ってんのかわかんないっすよね。笑
岡本:だから、「究極を突きつけるために全部の可能性を潰していく」みたいなことですよね。
圍:あー、そうですそうです!
だから気持ち良いものつくりたいからスヴィン使ったりシーアイランド使ったりってのは全部やりました。
でも、それは確かに気持ちいいけど戻ってこないんですよ。伸びっきりになっちゃって。
スヴィンとかもいろんなパターンでやりましたけど、結局キックバックは改善しないんです。
で、今度戻ってきやすいしっかりした綿でも編んでみたけど今度はガサガサしすぎて、着込んでいって水分が抜けたらこんな感じにはなるよねって思って。
じゃあ最初からそれをつくる必要はないよねってなって。
そんな感じで、まさに岡本さんが言っていた通り「潰していく」感じでした。
松本:いやー、ほんとに笑っちゃいますよね。笑
やりすぎでしょ。笑
で、あと、生地幅の話もありますよね?
圍:そうそう。
一般的な生地幅が130cmだとしたら、”WAFFLE”は70cmくらいなんですよ。
岡本:むちゃむちゃ狭い。
圍:用尺ってあるじゃないですか。普通は前と後を横に置けるんですよ。
野口:130cmあれば前身と後身を横に並べて取ってこれるってことですね。
圍:そう。でも”WAFFLE”は70cmしかないから、前身を置いただけでもうパンパン。笑
だから、縦に前身→後身→袖→袖って感じでやらなきゃいけないんで、生地代が死ぬほどかかる。笑
松本:なおかつ、その生地幅でとんでもない糸の量を突っ込んでるから、めちゃくちゃ密度が高いんですよ。
野口:そういうことですね。
松本:それを”WAFFLE”は凹凸のある立体感で密度が高いから、すごく不思議な感覚のワッフルになってるんですよ。
圍:その凹凸感や生地の耐久性を最大限に高めるために”ひと手間”加えてるんですけど、これに関してはブログとかではちょっと言えないので。笑
店頭で気にしていただける方には、存分にお話しします!
QUESTION5
【WONDER ROOMを通して感じてほしい世界観と、見据える未来とは?】
野口:松本さんにデザインのお話、圍さんに生地のお話をいただきましたが、最後にセールスの岡本さんの目線から見た、WONDER ROOMを通して感じてほしいことや、WONDER ROOMというブランドが見据える未来について教えてください。
岡本:はい。私からは手短に。
ブランド名であるWONDER ROOMという名前は”博物陳列室”っていう意味があって、Wikipediaとかで調べると出てくるんですけど。
昔の珍品を蒐集した場っていうところから名付けているんですね。
もともと松本さんから「WONDER ROOMというブランドやりたい」という話を受けた時からそう感じてたんですが、やっぱり”WONDER ROOM”である以上は”珍品”じゃなきゃいけないし、価値のあるものじゃなきゃいけない。
そしてそういったものが蒐集され集積していく場だからこそ、カテゴリーが生まれてくる。
なんかそういう流れが気がついたら綺麗にハマってきたなってことを、この2時間の4人での話の中でまず感じていました。
野口:確かに、そうですね。
岡本:あと、実際にこのデビューのコレクションが昨年の12月にローンチされて、お取扱店様からは嬉しいリアクションを頂いていて。
そうやって自分たち以外の人からの「なんかいいよね」っていう反応がとてもありがたいですね。
とても手間や時間をかけているものだし、素晴らしいものであることは間違い無いんだけど、決して難しいものではなくて、日常に溶け込むものだっていうことが、ここから着て洗ってを繰り返していく中で体感してもらえたら嬉しいですね。
野口:はい。本当にそうですね。
強いものなんだけど、難しくなくて、とても優しさがあるのがWONDER ROOMだと思います。
岡本:既に次の秋冬では新しいシリーズが生まれてくることが決まってるんですけど、そうやって新たに生まれてくるものも集積していって、どんどん”WONDER ROOM”になっていうイメージなんですけど、それが率直に僕も楽しみです。
全てのシリーズ、全てのプロダクトが全力で注ぎ込まれてるものだから、そういうものって色褪せていくこともないと思うんです。
だからこそ、様々なシリーズが生まれてきた時の合わせですよね。
褪せないって意味では、最初である今回登場した”WHALE”の生地って今あるものが終わったらもうつくれないんですけど、この最初の”WHALE”と3回目とか4回目に出てくる何かと合わせてもらった時に、その時にどんな感覚が生まれるかとか。
そういうのが名前を通して会話をになるっていうのがいいなって思ってて。
そういうことがいずれ世界に広がっていくようなことをイメージしてます。
だから、そういうことも含めて、何度も言うんですけどやっぱり楽しみだなって思ってます。
野口:はい。はい。WONDER ROOMは世界と戦っていける日本のものだと思います。
岡本:でもやっぱ根底にはみんなと共通してて、お客様には「なんかいいよね」とか「心地いいよね」「かっこいいよね」っていう、そういうことでいいと思ってて。難しいことはやってるんだけど。
だけどブランドとしてやっていく以上はかっこよくいなければいけないから、この3人でしかできないことをやっていきたいと思ってて。
野口:はい。
岡本:だから今回のCASANOVA&COでのイベントもすごく楽しみにしています。
松本:ほんと僕らも野口さんもお客様も含めて、みんなで楽しめたらなって思ってます。
言葉にできないような感覚を楽しむというか。
それをあえて一つの言葉にしたら例えばそれが「気持ちいい」とかってことなのかなって思うんですけど。
”余裕”があればそういうことだけで本来は楽しめると思うんですよ。
で、そういう”余裕”を生み出してるのが、僕とか圍くんの緻密な仕事なので、そういうところを楽しんでもらえたら僕らとしてはめちゃくちゃ嬉しいですよね。
圍:うんうん。
生地とかはもう出来上がってるものなので、それがいかに凄いかを伝えたいってよりは、感じてほしい。
撚糸だとか編みだとか、そんなことはこっちでやっとくんでいいんですよ。笑
一同:(笑)
松本:大変な思いするのはこっちだけで十分ですからね。笑
圍:だから脳を空っぽにして感じてほしい!
野口:皆さんとお話しできることを楽しみにしてくれているお客様もいらっしゃるので、ぜひ直接色々なお話をしていただけましたら僕たちもとても嬉しいです。
長い時間ありがとうございました!
以上となります。
少しでもWONDER ROOMのことを想像していただき、ものを見て、着て見たうえで、感じたことの答え合わせをしていただけたらとても嬉しいです。
それでは、18日(土)から、皆様のご来店をお待ちしております。