"巨人の肩の上に立つ"
タイトルにあるこの言葉は、学術研究の世界でよく引用される。
研究の進歩や技術革新は、先人たちが積み重ねた研究の成果や技術の発展の上にあるのだということを示す慣用句。
学術的に論文を書く際には、対象となる分野の先行研究やその先行研究がどこまでを結論づけているのかを事前にリサーチし、その上で自身が何を研究し結論づけるのかを記載する。
要するに、先人たちの築き上げたものの上に我々は成り立っているんだよ、という教え。
洋服の世界は、学術のそれとは異なるものだと思いますが、”彼”は自身の洋服づくりにおいて変わることのないであろう”彼”のスタンスを表現する言葉としてこのフレーズを用いています。
それは”彼”が今まで歩んできた半生の中で実体験を通して得た、自身への戒めに近いものなのかもしれない。
”彼”は大阪に生まれ育った。
おじいちゃんが庭で島精機の手動編み機を動かしていたという幼少期の記憶があるらしく、最終的に自身も洋服の道に進んだことは血筋だったのかなぁと語っていました。
そんな”彼”は、中学校を卒業してから10代半ばでアメリカを放浪することになる。
当時のヒップホップシーンやスケーター達に憧れ、実際に現地でそのコミュニティに触れて生活するという、当時の年齢では大きな決断をしました。
ただ、当時のその決断は、のちにファッションの道に進むためのものというわけではなかったそうです。
およそ1年弱のアメリカ放浪生活(うち1週間ほどはホームレスだったそう)を経て日本に帰国した”彼”は、自身の将来の可能性を広げることを目的に、高校に入り直し大学受験の勉強を始めます。
勉強自体は嫌いではなかったと語っていましたが、過去問に取り組むうちに面白くなり、やり込んだ結果、京都大学へと進学することに。
”彼”曰く、「京都大学の問題はめちゃくちゃ捻くれてるのに本質を突いていて、洋服でいうCAROL CHRISTIAN POELLみたいな感じ」とのこと。
わからない。笑
その後”彼”は自分自身に蓄積してきた文化のなかでも、洋服作りを志し、パターンの養成学校にダブルスクールで通うことになる。
そして京都大学を卒業し、海外のメゾンブランドを顧客とするテキスタイル開発の仕事に従事する。
そしてその後、”彼”は自身の名前を冠したブランドを立ち上げ、世の中に発表した。
ちょうどその時、縁あってCASANOVA&COにもそのブランドを紹介していただいていた。
当時はタイミングもあって皆様にご紹介するには至らなかったのだが、その次の2シーズン目の展示会に足を運び、僕は初めて”彼”と話をした。
”彼”の名前は、タナベダイスケ。
言葉数こそ少ないが、静かに力強く話すタナベさんからは、自分の言葉や表現に揺るぎない”裏付け”があることを感じさせられた。
ただ、その2シーズン目の展示会の時には僕の展示会スケジュールがパツパツで、30分ほどしか時間を取ることができず、満足に洋服を見て話をすることができなかったので、その”裏付け”がなんなのかという疑問を残したまま会場を後にした。
その半年後、ブランドとして3シーズン目となる展示会が、先月行われた。
再びタナベさんをはじめとするブランドのチームと話し、洋服を見た。
以前の時よりも、とても強く訴えかけてくるものを感じた。
その時はまだタナベさんの生い立ちや今までの経験を知らなかったが、自身が触れてきた文化をきちんと自分の養分として洋服づくりに反映させていることを感じ、それこそが”裏付け”の正体だと確信した。
さまざまな文化や作品に触れて、適切にそれらをリスペストした上で、自分自身がするべきことを俯瞰している、きっと素敵な人なんだろう。
洋服を見ただけで、そう思わされた。
そして先日、先述したようなタナベさんの生い立ちや考え方を聞いて、とても合点がいった。
きっとタナベさんは、自分が触れたものがどのように社会と接点を持っているのかについて客観的な目線を持つことが習慣付いているのだと思う。
だからこそタナベさんのつくる洋服は、自分の主張だけで構成されたものではなく、自身が関わる職人さんや技術に由来する手法もあれば、自分が影響を受けた作品などからのインンスパイアもあり、とても社会性を帯びている。
”Standing on the shoulders of Giants”
この言葉はタナベさんの洋服づくりにおいては、自身のクリエーションと密接な分野だけでなく、その周辺産業や文化などから適切に影響を受けることを自身に課しているのかもしれない。
その意味で、タナベさんは”影響を受け方”がとても上手いのだと思う。
適切に受け取り、適切に批評・解釈し、自分の表現に落とし込む。
とても主観的なタナベさんのコレクションであり、とても客観的な社会性を孕んだコレクション。
洋服づくりにおける基本的な技術などはもちろんだが、タナベさんの誰にも真似できないストロングポイントはここなんじゃないかと僕は思います。
3月15日と3月16日、そんなタナベさんが2着の洋服を携えてCASANOVA&COに立っていただけます。
その2着の洋服に関しては後日きちんと紹介いたしますが、14日(金)からの3日間だけ受注を受け付けます。
ブランドとして3シーズン目となる2025AWシーズンのコレクションの中で、最も心を奪われた超パワーピースシリーズ。
ぜひご覧ください。
daisuke tanabe "syvash"
2025.03.14 - 2025.03.16
続く...