こんにちは。
CASANOVA&COの野口です。
現在店頭ではIRENISAのLIMITED STOREの真っ只中。
日々、たくさんの方にお越しいただきありがたい限りです。
本当にありがとうございます。
IRENISAの中で僕からもご紹介したいものがあるのですが、それはまたのお楽しみにさせていただき、今日はdaisuke tanabeの洋服を。
今年の3月に店頭で開催した受注会がもうすでに半年前。
その時にご覧いただいた方には感じていただけていましたが、ブランド3シーズン目とは考えられないほど強靭なクオリティ。
ものづくりにおけるタフネスさ。
コレクションテーマの奥深さと明快さ。
そして、忘れてはならないのが、洋服としての面構え。
田邊さんの生い立ちから今日に至るまでのキャリア全てが、daisuke tanabeに接続している。
半年前の3月、店頭で受注会のイベントを開催し、初日の在店を終えた田邊さんと大衆酒場のような居酒屋でプチ打ち上げを行った。
お互いにお酒をよく飲むからということもあり、年齢が近いということもありで、とても話が弾んだ。
弾んだというか、田邊さんの知識の幅と深さと、それを適切に脳内から取り出してくるコントロールの良さと、そのスピードにとにかく驚いて、田邊さんの話を引き出すことに僕は夢中になった。
10代でアメリカを放浪していた時に偶然見かけたTyler, The Creatorの話。
日本に帰ってきてSupremeに並びながら京都大学の赤本を解いていた話。
京大在学中の就職活動の話。
偉大なブランドたちの、偉大なフォトグラファーの話。
現代美術の話。
などなど、信じられないほどに多岐にわたるトピックを、彼なりに繋がりを持ちながら横断して話をしてくれた。
僕にはそこに繋がりがあるという漠然とした事実までしか理解できなかったが、田邊さんのクリエーションの背景にある構造はなんとなく理解ができた気がした。
彼の脳内には蜘蛛の巣状に広がるネットワークが存在している。
それも、とんでもない広さと深さと密度で。
そして、思いのままに、とんでもないスピードで、その中を意識という信号が駆け抜けることができる。
とにかく、ヤバい人。笑(もちろんいい意味で)
そんなヤバい田邊さんがつくる25AWシーズンのコレクションテーマは、”syvash”。
ウクライナに実在する”syvash”=”腐海”という湖が主題となったコレクション。
詳しくは半年前の僕が頑張って噛み砕こうとしたブログがあるのでそちらを読んでみてください。
超簡単に要約すると、
・ウクライナに実在する、狂った生態系の湖である”腐海”。
・”風の谷のナウシカ”に登場する、人類と自然の共存の鍵を握る”腐海”。
・現在のウクライナが抱える、ロシアとの戦争の問題。
・実はナウシカの物語は、大戦争の後の物語だということ。
このような”人”、”自然”、”戦争”などといったキーワードを”syvash”から読み解くことができる。
そして、そのような主題に基づいて生地の開発やパターンの設計を行うのが、daisuke tanabeとしてのコレクションの構築。
誰もが知っている名画と現代社会の抱える問題を複雑に絡め合わせ、ただカッコいいとか凄い服だとかで終わらせずに、着る人に問題提起を投げかける。
コレクションブランドとして、社会の中で果たすべき役割にきちんと向き合っている。
前置きが長くなってしまいましたが、そんなdaisuke tanabeの”syvash”から、タイトルにある通り最高密度のベンタイルを使用したジャケットをご紹介させてください。
daisuke tanabe
asbel/ventile
color _ olive
size _ 2,3
それがこちらのジャケット。
生地のアップとかを撮ってないのですが、このasbelに使用しているのが、最高密度のベンタイルコットン。
ベンタイル社の品番としては”L28”と呼ばれるそうです。
ベンタイルと聞くと単純に高密度なコットンの防水布をイメージする方が多いと思いますが、実はかなりたくさん種類があるそう。
実際にdaisuke tanabeでもL28以外のベンタイルを使用することもあるのですが、このL28がベンタイル社で最も高密度で、最も高額。
(ちなみに2番目に高額なベンタイルは、最も軽量で薄いベンタイルなんだとか...)
一般的にファッションブランドで使われることは少ないようで、ベンタイル社としても今回daisuke tanabeが使用しているオリーブカラーとオレンジの2色しか用意できないそう。
つまり、軍用のオリーブと、レスキュー部隊などのオレンジ。
超ミリタリー用途でしか考えられてない。笑
だからこそ一般流通も限りなく少ないそうで、田邊さんはベンタイル社に直接自らコンタクトを取り、このL28を使用しているそう。
田邊さんがアクションを起こす相手は日本国内にとどまらないのです。
だからこそこのような生地を自分自身で引っ張ってきて、こういう洋服づくりができてしまう。
このasbelで特徴的なのが、右胸からバックまで大きく続くフラップ。
これはトレンチコートなどに見られるガンフラップとアンブレラヨークを拡大解釈したディテール。
シーズンテーマの文脈とも繋がる、重要なデザインだと思います。
ネックは立ち上げると顎までを覆い隠すほどの高さ。
ガンフラップの内側にジップがありますが、首元はスナップで止める仕様です。
ジップはririジップ。
このジップも普通のririではない。
この引き手のサイズでマット加工で引き手にロゴが入らないものを別注してriri社が作ってくれているとのこと。
なので、daisuke tanabeのジップはほとんどがこのタイプが付属します。
ベンタイルといいririといい、ダイレクトで仕事しすぎでしょ。笑
月腰の部分とポケット口はイタリア製のベジタンゴートレザー。
この部分も、人工と自然のアンバランスさを感じさせるポイントなのではないでしょうか。
着用するとこんな感じ。
最高密度のベンタイルのハリ感ゆえ、特大ガンフラップが異様なフォルムを生み出します。
こっち側のポッケもwithベジタンゴート。
フラップも右脇線で縫い止められていないので、意外に右ポケットへのアクセスも良好。
ほれ。こんな感じで。
個人的には首元だけスナップを留めた着方が好きです。
ベンタイルの立ち方と逃げ方が秀逸。
何度も言いますが、最高密度のL28なので洋服のアウトラインがバキバキに出る。
スムースや裏毛などの柔らかな洋服に対してバキバキなベンタイルを合わせる、みたいなイメージ。
戦争や”腐海”というキーワードを通して自然物と人工物のコントラストに着眼したコレクションだからこそ、アンバランスであることに美しさを見出すきっかけとなりうるのではないでしょうか。
daisuke tanabeを通して、洋服の持つ豊かさを感じるとともに、現代社会への問題意識をより強く感じていただければ幸いです。
ぜひ見てみてください。