先日から、お伝えしていた"山栄毛織"さんで織ってもらった生地。
今回、一番最初に少し書いたように、それは自分としても"未知"の領域であり、洋服に関わる人生の中で、一つ、追い求めたいレベルの素材。
その素材を山栄毛織さんで目にし、それを山栄毛織さんが誇る"両口開口低速レピア織機"で、素材が持つポテンシャルを最高潮に発揮させたいと思ったの。
そして、自分自身はもちろん、当店をご覧頂ける方々に、それを時間をかけて体感してもらいたいと思った。
その素材、、、
"グアナコ"。
この繊維は、ホンッット、知ってる人は少ないんじゃないかな。
また、それが使われてる生地を見たことある人や、既に持ってる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
限りなくゼロに近いと思う。
それだけ、超絶的に希少素材であるのだ。
山栄毛織の山田さんが言うには、ここ20年間でグアナコ繊維を織ったのは、なんと、2回目だそうだ。
世界中から、いろんなデザイナーやメーカーさんが訪れる山栄毛織さんでも、それだけの数の少なさ。
僕自身も、最近は、展示会時や、日頃連絡を取り合うブランドの方に、「今は、何か生地をつくってるのか」みたいな感じで聞かれても、今回の"グアナコ"は、その繊維の存在を知ってる人は、2人しかいなかった。
尾州の産地の方でも、生涯知らずに過ごす方がいるほどの、大変に希少な繊維だそうです。
ただ、しかし。この素材は、圧倒的な"希少繊維"ということもあるけど、それだけではなく、その繊維のクオリティを表す、"繊度(せんど)"。
そのレベルもかなりのもの。
まあ、前回の山栄毛織さんのことを書いたブログで、山栄毛織の山田さんが、「生地は〇〇ミクロンなどだけではない」と言ってたのを紹介したんですけどね。
一応ね、一応。念の為にお伝えだけさせて。
それに今回は、グアナコの中でもとっておきのものを用意してもらえたから。
今回のグアナコ繊維の細さは、"14.5ミクロン〜16ミクロン"の細さのものを使ってる。
超一級品グアナコ。
この数値は、人間の髪の毛は、80ミクロンだから、まあ、髪の毛一本とも比較になりませんね。
まあ、そもそも、インターネットで検索したりしても、全っっ然情報が出てこないような繊維でもあるから、まず少し紹介しますね。
グアナコは、ペルーやアルゼンチンに生息する動物です。
フタコブラクダと同じラクダ科の一種で、この仲間には、
リャマ・アルパカ・ヴィキューナが分類される。
グアナコは、リャマより小さく、アルパカよりは大きな120cmくらいの背丈だそうです。
そして、リャマとアルパカの先祖と伝えられてるみたい。
リャマとアルパカは、野生のグアナコが家畜化したものとも言われているそうです。
もちろん、人間がフツーに住めないような高地に生息してますね。ヴィキューナよりは、低いところに住んでるみたいだけど。
そういうグアナコ繊維の特徴は、繊維を超拡大すると、大きな特徴がある。
ウールや、獣毛繊維の表面には、人間の髪の毛でいう"キューティクル"のような鱗状のもの、"スケール"が存在するじゃないですか。
グアナコは、そのスケールがとても薄く、ほとんど存在しないと言っても良いレベルだそうだ。
この点は、ヴィキューナも共通してる。
だから、非常にヌルッヌルで、とてつもなく柔らかい。
羊のウールは、もちろんスケールが存在するし、アルパカでもスケールは存在する。
ただ、グアナコとヴィキューナは、カシミヤやモヘア以上にスケールが薄く、毛の表面が極まった滑らかさをしてる。
これは、この2つが突出してる。
そのことは、シルクと限りなく近い。
繊維表面の凹凸だけを見ると、誰もが滑らかなのを容易に想像できるシルクと非常に似ている見え方をするのだ。
そして、"幻の繊維"と言われるヴィキューナが「キング」と言われるならば、グアナコは、「クイーン」と呼ばれる繊維。
ただ、そのグアナコは、繊維の特性により、グアナコ100%では"生地として存在しない"。
というか、厳密に言うと、"グアナコ100%"では、繊維の特性として「糸ができない」そうです。
それだけの繊細な繊維ということだ。
一つの繊維だけでは、糸ができない、生地になることができないものなんて、僕は、これまで一切、他のものでは聞いたことがなかった。
ただ、"グアナコ100%"で、糸が不可能、生地が存在できないのであれば、それを別の方法で形にすることができれば、グアナコ繊維が持つ、圧倒される程の柔らかさ、ヌメり、肌触りは体感できるのではないかと思った。
だから、ここからがスタートだった。
まず、グアナコの糸をつくるために、いろんな方法を考えた。
考えたと言っても、僕が考えたのではない。
僕は、自分の理想をお伝えしていただけなので、山栄毛織の山田さんと、紡績屋さん、とあるブランドのデザイナーが考えてくれた。
その間に、自分ができることとして、僕は、必死で祈ってた。笑
いろいろな方法をいろんな側面から、要望を出したベストバランスを実現するために、すごく向き合って下さった。
僕の中で、絶対的に外せなかった条件は、2つ。
一つ目は、グアナコ繊維の特徴が、もの凄く活き、グアナコの魅力が絶大に感じられること。
二つ目は、あまりに繊細な繊維であるが、それを長年使い続けて感じられることが、必ず存在するはずである。
だから、長年の度重なる使用にも耐えられる"耐久力"を持っている生地であること。
繊細で、柔らかくて気持ちいいけど、たまにしか着れない、使えない、とか絶対ダメ。
何なら、時には洗濯もできて、それに応じた変化をしてくれると、尚オーケー。
超ウルトラヘビーユースしても、それに応えてくれ、それだけ使った暁には、発揮してくれる、繊維と生地の"力"。
そのことをとても大切に考えた。
まあ、そんなこと、"グアナコ"でフツーに考えたらかなり難しいと思うけど。
非常に繊細と言われる繊維で、言ったは良いものの、実現できるのかと思ってたんですけどね。
しかしながら、さすがだ。
時間をかけて山栄毛織さんが見事に形にしてくれたのだ。
もうね、鳥肌ものですよ。
ホントに、さすが山栄毛織さんですよ。100年以上もの歴史を誇る機屋さんですが、とてもクリエイティブ。
「山栄さんならグアナコを活かして、要望を叶えたものを生み出してくれるだろう」って信じてたけど、それどころか、出来上がったものは、僕の期待を、すごく、遥かに、余裕で、むちゃくちゃに、越えてきた。
本当にすごいものが出来たと感じています。
その生地がこれ。
この生地。
日本で初めての生地だろう。
グアナコ繊維が希少価値溢れるものであるのは、先述の通りですが、現在、見たとしても、時々"ニット"の編み物としてだそうです。
ただ、今回のこれ、"織り"だから。
織り生地。
というか、この生地、生地がオリジナルというのではなく、グアナコの糸が存在しなかったから、"糸"から"オリジナル"でつくってもらったのだ。
先ほど、お伝えしたように、目指したものは、グアナコのヤバヤバな繊維特性は最強に感じてもらえ、それでいて、強く、タフな生地。
グアナコ100%では、糸をつくることが出来ない。
だから、"グアナコ糸"を実現させ、僕の理想とした形にするためにベストなもの。
グアナコの"風合い"を保ちながら、"強靭さ"を兼ね備えていること。
そのために、グアナコ繊維に加え、その繊度と同等となる"15ミクロン"のウールをブレンドした。
つまり、グアナコとウールのブレンド糸なのだ。
使用しているグアナコ糸が14.5〜16ミクロンのものだから、その繊維を邪魔しないために、それと同じレベルの繊維の細さの"ウール"を入れた。
これは、よく表現されるSUPER表記でいうと、"SUPER 160S"となる。
この"SUPER 160S"のウールは、グアナコに"粘り"と"芯の強さ"を与え、結果として、"強度のある糸"をつくることができ、糸としてとても安定する。
加えて、僕は、そのグアナコ繊維を使う際には、前提条件として、"無染色"で、ありのままのグアナコの魅力を生地にしたいと思ってたの。
なぜなら、それが最も繊維の持つ特性が発揮されるし、もしかしたら自分にとっても、"最初で最後の素材"となるかもしれないから、"そのまんまの良さ"をできる限りダイレクトに、心と身体で感じたかったから。
ですので、"無染色のグアナコ"に合わせ、15ミクロンのウールも"無染色"で。
同じSUPER 160Sの中でも、色々なものがあるそうだが、山栄毛織さんが国内の一流紡績屋さんとのやり取りをしてくれてた。
そして、その中で、同じ繊度の中でも、無染色で"白い"、かなりの高品質原料が存在したそうです。
実は、紡績屋さんが、それを提案してくれ、"無染色グアナコ・ウール糸"は完成したのだ。
これは、ウルトラ級のハンパない組み合わせができてると思います。
山栄毛織さんや紡績屋さん、皆さんがこのために、とても尽力してくれたもの。
国内屈指の紡績屋さんだそうですからね。
この糸は、60%グアナコ、40%ウールとして、"混紡"し、最終的に求める生地にするために、"12番手単糸"という、膨らみのある"紡毛"の糸をつくってもらいました。
"紡毛"にした理由は、山栄毛織さんや、紡績屋さん、その世界の超絶プロフェッショナルの方々の意見があり、「グアナコの特性を活かすなら、確実に紡毛です」ということで、その通りに"オリジナルの糸"をつくってもらいました。
この糸を"経糸"として使っています。
そして、次に"緯糸"。
この"緯糸"は、経糸の"グアナコウール混紡糸"に対して、何を使うのかということは、非常に重要だった。
圧倒的な柔らかさと滑らかさを持つ、グアナコ。
それに、ブレンドしたのが、15ミクロンのウールだ。
通常なら、全体をソフトに仕上げるために、緯糸も揃えるか、緯糸もウール、もしくは、別の獣毛で仕上げるだろう。
今までの僕ならそれでお願いしてた。
だけど、今回、既に、僕の中には、完成した洋服の理想的イメージ像が明確にあった。
それに、動物繊維系で統一させると、高品質で、良いものなのは分かるのだが、それだけなら、大体どんな感じか想像できる。
このことは、12月に山内さんと葛利毛織さんでの"フェレイラ・モヘア"をつくった時に、既に自分の中では圧倒的な感動とともに、体験済みなことなのだ。
だから、せっかくのグアナコ繊維を、超未体験ゾーンまで持っていきたかった。
そして、僕が自分の中で出したのが、
"FOX 50G"。
この繊維は、、、
コットンだ。
"超繊維の紡毛×コットン"。
未知の素材に対して、未知の組み合わせでつくり上げたかった。
そして、このことが、生地となった時の"強靭さ"につながると考えた。
"FOX 50G"とは、「フォックス・グリーン」と言われる種類のコットン。
これは、"奇跡のコットン"。
どういうことか。
アメリカの生物学者サリーフォックス女史が、オーガニック農法で、古代に存在した"茶色い綿"を現代に蘇らせた。
この"茶綿"、ブラウンコットンは、ナチュラルな有色綿花で、完全なるオーガニック。
それは、"FOX BROWN(フォックス・ブラウン)"と言われる。
通称"FOX B"だ。
しかし、この種を開発する途中で、突然変異が起きたそうだ。
そして、出来上がったのが、別の有色綿花。
その"緑色"の色合いは、とても美しく自然の鮮やかさがあるグリーン。
この美しさは、そのまま残すべきだと考えられ、保存された。
そうして、サリーフォックス氏が開発した、ブラウンとグリーンのコットンは、現在、アメリカ、テキサス州のドーシー・アルバレスさんの綿花畑で有機栽培されている。
そう。
ドーシー・アルバレスさん。
このブログでも、何度か書いたことがあるのだけど、"アルティメイト・ピマコットン"を栽培する人物でもあるのだ。
このアルティメイト・ピマは、カネタ織物さんでも頻繁に使ってる高級綿花ですね。
だから、僕の引き出しを思いっ切り駆使してるの。笑
そして、緯糸に使っている"グリーンコットン"は、通称"FOX G"と呼ばれ、今回は、その中でも、"FOX 50G"という、天然で取れる"最大濃度のグリーン"を選びました。
グアナコ・ウールの無染色(経糸)
と
FOX 50Gのグリーンコットン(緯糸)。
もちろんこれも、そのまま使ってるから無染色です。
そして、色だけじゃない。
"FOX 50G"は、通常流通しているのは、単糸で、単糸のまま採用する方が、プライスを考えると、少しだけその点を抑えることができる。
しかし、山栄毛織さんや、今回一緒に取り組んだブランドとの話し合いもあり、グアナコに対して、グリーンコットンを格上げするために、それを"双糸"でつくりあげてもらったの。
これが、単糸なのか双糸なのかで、全然クオリティが変わるから。
糸の質の、何から何まで全部変わる。
グアナコ・ウールに対して、強く、美しい、"FOX 50G"の双糸。
それを20/2という、太い糸で織り上げてもらっています。
そして、肝心な生地組織。
組織については、今回一緒に取り組んだブランドが、とても好きで、得意な組織があった。
そして、僕もそのブランドがつくっていた生地の組織にとても心惹かれたの。
"変形綾織り組織"。
"ラチネ"だ。
特に、今回は、完成した洋服の漠然とした想像図はあったし、それを実現するのには、この組織が必要不可欠だった。
単調ではなく、規則性があるが、自然的なものに近い複雑さと、奥行きがある組織。
それでいて、表と裏の表情が異なり、僕は、そこにはとても引き込まれるものがあると感じる生地組織なのだ。
そして、設計された生地規格は、山栄毛織さんの"両口開口低速レピア織機"で時間をかけて丁寧に織り上げられ、高密度で、糸そのものの膨らみも抜群中の抜群。
混率でいうと、
グアナコ38%・コットン36%・ウール26%という、むちゃくちゃミステリアスマテリアル。
生地の目付けは、555g。
これは、結構な重量だ。
しっかりと目がつまり、手に持った瞬間にその密度が感じられる。
でも、超絶素材の紡毛の膨らみと軽やかさ、ただ、しっかりとしたコットンのタフさを瞬時に感じてもらえるはず。
この生地は、着てると驚きですよ。
乾いてるのか、ビチャビチャに濡れてるのか分かんない。笑
洗濯をするとね、更にそう。
グアナコとウールがすんごく滑らかに落ちてくるのに、コットンが張ってる。笑
重力に逆らうことなく、肌へ寄り添う圧倒的タッチなのに、確実にコットンが自立してるの。
"理解を超えた共存"。
生地だけでも、この衝撃は、誰もに感動してもらえるはず。
そのことは、手にしてもらったすぐじゃなくて、"その先に"より一層の世界が待ってくれてる。
これは、全員中の全員が未体験と思ってもらえる、"未知の生地"が出来たと思います。
ただ、超原料のクオリティだけではなく、それを織り上げてくれた山栄毛織さんの織りの良さ。
超感動的。
さっきも言ったけど、洗うと特にそうですね。
今回、この生地を山栄毛織さんに"125m"織り上げてもらいました。
一店舗あたりで考えるとかなりの量ですが、どこにも存在しないせっかくのものなので、当店をご覧頂ける方々にできる限り手にしてもらいたいと思い、このメーター数を余すことなく使い切りました。
1メートルあたりのプライスもここで公表はできないけど、かなりの高額プライス。
そして、その生地は、先述の通り、"ラチネ"組織。
この生地の特性は、表と裏で全然見え方が違う。
ラチネは、表は、そのまま"ラチネ"と言う。
対して、裏は、別の生地の名称になるんですよ。
それが、"タッサー"。
どちらもが表面として、一級品。
だから、それぞれの面を採用しました。
グアナコ・ウールが65%、表面に現れる"ラチネ"。
FOX 50Gの双糸が65%分、表に現れる"タッサー"。
同じ混率であり、素材そのままの無染色でありながら、見え方が全く違う生地。
そして、その生地を、特別な縫製クオリティの方々にお願いしました。
国内三本の指に入る、レディース縫製高級プレタポルテ工場。
"マーヤ縫製工場"だ。
そう。
そして、当店で取り扱いをするブランドで、"マーヤ縫製工場"で洋服をつくってるブランドは、一つ。
今回一緒に、洋服づくりを行ったのは
"tilt The authentics"。
もの凄い技術のレベルを持つ方々が、もの凄く時間をかけて、丁寧につくりあげてくれました。
もう間もなく、お披露目できると思います。
続く。。。