久しぶりの"山内"

前回の入荷は12月頃だったので、今年になって初めての登場です。 "山内" もう取り扱いをして何シーズン目になるか分かりませんが、到着。 今回の入荷から一応、SSシーズンとかAWシーズンとかそういうシーズンでの括りがなくなりました山内。 しかしながら、今回を筆頭にここから少しずつ続く予定です。 最初は、シャツ。 ブランドでは全く新しい形、生地での登場です。 しかも、ストライプ。 山内 コットンキュプラ・ストライプシャツ(羽衿付き) material _ COTTON 45%,CUPRO 30%,LINEN 10%,RAMIE 10%,SILK 5% color _ BLACK size _ 3,4,5 マテリアルをご覧頂く通り、5種類の繊維が入った生地。 シルクとキュプラの聖地、山梨県の富士吉田市でつくられた生地ですね。 そして、生地段階での低濃度で施される塩縮加工。 ストライプのカラーバランスということもあるとは思いますが、総じてかなり雰囲気の強いシャツですね。 ブランドのコレクションでは、上衿が付くものと、スタンドカラーとで選べたのですが、当店では衿付きのものでの取り扱いです。 約半年ぶりくらいに山内の洋服が店頭に並んだのですが、やはり特別なクオリティを感じられますね。 改めてですが、山内というブランドは、オーバーサイズの洋服は全くなく、立体的でどちらかというとジャストサイジングのものが中心です。 しかしながら、今回のこのシャツに於いては少しブランドの中でもルーズな空気感でつくられています。 でも、全然過剰に大きいとかじゃない。 どうなってるのかというと、 まずは肩周り。 大人の漢の方々をはじめ、生粋の洋服好きの方の中には身頃と肩の切り替えの「肩線」が落ちているだけで、もはやNGという方もいらっしゃいます。 このシャツはフロントから見ると「肩線」はジャストショルダーですが、バックはその肩の位置が腕の方向にズラした設計です。 こういうこと。 これによりバックスタイルは気持ち余裕を持たせた見え方になる。 それに加えて後身頃の肩の分量を大きくとることで前方への腕の稼働の軽快さが生まれます。 それに加えてこれ。 アームをつける角度が超人的。 肩のテッペン(袖山)と脇下(カマ底)のアームホールの接ぎの部分をシワが寄らないように置くと袖がもの凄く変形する。 これにより、着用時の動きのストレスは微塵も感じない。 腕が動かしやすく、着ていてとても快適な構造です。 前後での肩線の位置は、指の間隔分の差があるので、視覚的には目が行くと思います。 そして、このシャツはそのような肩の設計なので、バックヨークが必要ありません。 だから、後ろから見ると一般的なシャツとは少し違った印象になると思う。 着丈が長めな分、スリットが入ります。 あと裾はフロントがラウンド、バックがスクエア。 これ裏からの写真なんですが、美しいスリットの処理。 前身頃と後身頃の裾は、それぞれ三つ巻き仕様なのですが、それがカンドメの仲介役がありながら、柔らかに滑らかに重なり合って、一体化していく。 袖口の処理も山内クオリティ。 しっかりとエッジの立った処理なのですが、 これ裏の写真です。 左右の剣ボロ開きがそれぞれ、同じ生地の別パーツで包まれてるのですが、 これ。 裏の剣ボロの開き留め。 生地端が内側に折り込まれてる。 今まで初めて見た、生地端の処理方法ですね。 構造上、通常は一枚パーツでの剣ボロ開き処理の一続きの仕様ではない限りは、生地の端が飛び出てしまうことが多い箇所なんですが、そこを丁寧に手を入れて仕上げてる。 あまり見られることがなく、手を抜ける場所でもあるから、このようにしてあると洋服としてとても安心できる。 一つずつ輝きを放つ"本黒蝶貝ボタン"。 もちろん手付け。 と、異様に細かく、糸同士の隙間がないレベルのボタンホール。 どこをどう見ても、この糸番手の縫製糸に対して、信じられないくらい細かい運針数での折り伏せ縫い。 これも裏側の写真ですが、丸みの強い肩周りでさえも、きっちりとミシンテクニックを駆使した縫製です。 写真を撮るのは忘れたけど、このシャツも埼玉県の水出さんを中心とした方々が縫ってます。 だから、縫製者タグには、水出千代子さんの名前が入ります。 やはり、とてもアメージングでBeautifulな縫製レベルですね。山内。 良いものつくってくれてる。 これからのデリバリーが楽しみですね。 ということで、本題に。 この生地、山内で初めて使ってるものなのですが、最初に紹介した通り、5種類もの繊維が組み合わされて出来上がってる。 コットンが45%、キュプラが30%、リネンが10%、ラミーが10%、シルクが5%。 このような混率は、なかなかお目にかかれないので、とても珍しいですね。 そもそも山内では、これまでは強撚ポンチの生地以外は、天然繊維だけしか使ってきませんでした。 しかしながら、前回の秋冬のコレクションのときからキュプラを研究し、使い始めた。 キュプラは、レーヨンに次ぐ、化学繊維の中でも長めの歴史を持つ繊維。 ドイツで開発され、その技術が日本に導入されて、日本で育まれた繊維でもありますね。キュプラ。 化学繊維の中でも、最も天然繊維に近い、再生繊維というものに分類される。 天然繊維に近いというのがどういうことなのかというと、原料となるのは、綿花です。 そう。 コットン。 半分コットンで、半分化学的。 先日、コットンについて少し書いたのですが、コットンという繊維は、綿花という花があり、その花が枯れて、中の種子が現れ、その種子を守るための「綿毛」の部分がコットンという繊維になる。 そして、その綿毛を採った後、採りきれなかった短い繊維が残る。 その短い繊維というのが、「コットンリンター」と言い、それを原料にしてる繊維ですね。 そこに、化学溶剤を混ぜ、抽出し、紡糸するのがキュプラです。 レーヨンと似てる性質がありますが、レーヨンよりも耐久性が高く、水に強いのが特徴。 そして、この生地はそのキュプラが大きく着心地に影響してる。 この生地を37.2倍に拡大した写真です。 5種類の素材、それぞれ特徴を活かした使い方をされています。 経糸の黒の部分は、コットンとリネン、ラミーがそれぞれ繊維の段階で混ぜ合わされた、混紡(こんぼう)という使い方をされています。 同じく経糸で白く見えるのが、絹紡紬糸(けんぼうちゅうし)。のシルク。 そして、緯糸は全てキュプラ。 白い経糸のシルクも通常であれば、かなり輝きの強い繊維ではあるのですが、野生的な見え方になるのが特徴的な絹紡紬糸で使われているから、毛羽立ちも多く肉眼ではとても趣のあるものに見える。 コットンとブレンドされたリネンとラミーは、植物の靭皮(じんぴ)という茎から採取される繊維で天然ならではの質感があるから、生地を拡大して見ると、一つだけツルンツルンの繊維が見えて、これがキュプラです。 この生地は、組織は「綾織り」。 そのため、緯糸であるキュプラは表の露出は僅か。 だから、表からは一見マットな生地に見えるのですが、奥のほうからチラチラとキュプラが顔を覗かせる。 それにより、生地にとても奥行きが生まれてる。 対して、これが裏を同倍率の37.2倍に拡大した写真。 先程の表から見たものと比べると横方向に走るキュプラが多く露出してるのが分かると思います。 そして、この生地は、製織後に同じく富士吉田市で手作業による塩縮加工をしてる。 山内のシャツの代表的な「塩縮加工リネンシャツ」も同様に手作業で塩縮をかけられるのですが、これは、高濃度塩縮液を使用するとキュプラが溶けてしまうそうで、液性濃度を下げての塩縮。 それにより、塩縮加工リネンシャツ程ではないけど、より一層の生地の奥行きが生まれ、リネンとラミーの毛羽立ちが出る。 だから、表から触ったときには、乾いたような生地なんだけど、肌に当たる内側は、濡れてるの。 濡れてはないけど。 それくらい、裏側は滑らかで、表は乾いてる。 まあ、いろいろ書いたけど、めっちゃ良い生地って思ってください。 絹紡紬糸のシルクだけで構成したストライプも良い見え方してますよ。 あとは、こう見ると、見た目は重みのある生地に感じるけど、不思議や不思議、とても軽やかです。 これ綾織り?嘘だろ。って感じ。 風も通るし、山内さんは天然繊維でもランクの高いものしか使わないので、明らかな上質感はすぐに分かってもらえると思います。 コレクションでは、色違いのホワイトベースのものもあったのですが、新品の状態から強さがあるし、着て洗っていったらポジティブに枯れてくる姿も想像できたから、そういうのお好きな方には良いかもしれません。 繰り返し洗う度に5種類の繊維それぞれが持つポテンシャルが少しずつ表れてくると思うし、その姿を楽しんで。 これから暑くなってきて、洗濯回数も増えるだろうから、良いサイクルですね。 あとこのシャツ、品質表示のパーセンテージをどう足しても、95%にしかならないというミスがあったので、正しい表記のあるシールが明後日くらいに当店に到着するするように山内さん送ってくれるみたいです。 だから、そんなに数を仕入れてないのですが、20日(木)くらいにオンラインストアに掲載する予定です。 この状況で、あまり無理に外出しづらいと思うので、ご来店が難しい方はそちらも見て頂ければと思います。
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