早いですが、どこも少しずつ新たなシーズンが始まってるみたいですね。
当店でもCOMOLIは既にスタートしていますが、それに次いで早くもAraki Yuu。
こういう洋服のジャンルになってくるとシーズンというのはほとんど関係ないですが、それでも使用する素材や仕様などはそれに適したものにしています。
今回はコートが2種類。
当店での2021SSシーズンのAraki Yuuのコートはその2種類のみです。
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Araki Yuu
atelier coat with half lining
material _ linen 100%(泥染め)
button _ brass
size _ 1
アトリエコートという名前のコートです。
オリジナルのスタンドカラーパターンに大ぶりではないですが、少し分量のとられた身幅、きちんと長い着丈のコートです。
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使う素材はリネン100%。 ブランドでは以前から「泥染め」を特に春夏シーズンにやってきたけど、それって染色する回数が増えれば増えるほど、濃い色に染まるし、高価になってきるんですよ。
で、今回のこの生地は、これまでで最も濃色の泥染めです。
そもそも、泥染めって本当に泥で染めるんですが、すごく山深く、自然が豊かな地域の田んぼで染めていくんですよ。
もちろん、そんなところに大きな規模の機械なんて入れられないから、人の手で。
リネン100%の糸を少しずつ束にして染めていきます。
そして時間かけて出来上がった色はやはり格別。
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マイクロスコープの光の関係でだいぶライトに見えますが、手染めのリネン糸なので、糸自体は気持ち太めです。
一般的な染色では全体的にきちっと染まるのですが、少しランダムな見え方は自然のモノならでは。
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製織は、更に生地に凹凸を出すことができるドビー織機で。
泥染めの僅かなムラとドビーが組み合わさることで、とても趣ある深い表情が出てくれてますよ。
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そして、そこにプラスされるのがブラス。
もうね、これだけで次元違うって視認できる。
ボタンもAraki Yuuが時間をかけて一つずつ真鍮を錆びさせてるのよ。
まず、ボタンを形づくるところから既に特殊なのにね。
そこから更に、もう一発ヤッてますね。
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ボタンホールも手縫い(シルクの糸で)。
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ウエスト位置のサイドポケットは大きめで、僅かにS字を描いたポケット口。
ポケット口の両端も手縫いのカンドメ(シルクの糸で)。
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でも、それだけじゃないポケットの思いやり仕様。
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裏にはポケット見返しの泥染め生地と、白いコットンが配置されてる。
しかしながら、表からはその切り替えのステッチなどは一切露出せず、大きなポケットの形状のみをグッと前に押し出してる。
その上、きちんと見返し布は表からは見えないように控えて(数ミリ程度裏側にズラす)取り付けられてる。
本来では洋服の基本的なことも今ではどんどん簡素化されて生産をされている時代ですからね。
きちんと洋服をつくるAraki Yuuの姿勢が見ることができる箇所。
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表面からは一見、そうとは感じさせない見た目。
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春夏シーズンということで背抜き仕様にしてもらってます。 身頃裏も超優秀だから。
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手縫いが見てとれるボタンホールと、南京玉縁(なんきんたまぶち)。
南京玉縁については前も少し説明したことあるけど、今では機械化されている玉縁処理ですが、この仕様は機械化できないから廃れてしまった玉縁の仕様です。
ポイントは、両玉縁ポケットの両端の三角形に内折りされている生地端。
こういうことをやり続けるブランドだからこそ、洋服に心を委ねることができるってワケ。
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見えない裏に備わる複雑仕様。
振らした(生地が縫い留められていない)裏地を留め付ける複数の糸ループとポケット口の補強パーツ。
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やっぱりこういうこと。
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フックベント(写真撮ってないけど)に、角の立った額縁仕立て。
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袖裏にはダークブラウンのヘリンボンキュプラです。
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洋服が完成後にはアイロンでプレスをかけ、ピシッと仕上げるのが主流ですが、Araki Yuuはその逆をいってる。
きちんと丁寧につくりあげた後に自ら洋服を洗いにかける。
そうすることで素材の表情をより引き上げることに成功。
まあでも着続けることによって更なる飛躍を遂げるコートであることは明確だから、この先を楽しんでください。
もう一つ、
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Araki Yuu
soutien collar half coat
material _ cotton 100%
button _ black brass
size _ 1,2
ステンカラーのハーフ丈のコートです。
Araki Yuuの中では最も削ぎ落された見た目をしたコートですが、これがすんごいのよ。
衿の大きさ、ネックの高さ、寸法、着丈、身幅などの分かりやすい点はもちろん素晴らしいバランスで出来てるけど、それに加えて滑らかに、スマートに、サイドネックからショルダーポイントにかけて流れ落ちる肩のライン、そして首に向かってせり上がるような衿のアウトライン、これサイコー。
まあ、着てる写真はないんだけど。
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生地は、密度の高いコットングログラン。
Araki Yuuでは、珍しく少しテクニカルにも感じる生地の表情ですね。
あとは、グログランなので、ピケに近いような畝があります。
ただ、ピケよりももっと硬く、ハリが強く、「密」なタッチですよ。
カラーリングはブラック。
ブラックといえども真っ黒なんだけど、グログランの生地の性質上、不思議にも白っぽくも見えるんですよ。
テック生地にも捉えることができるし、人によってはこの先の生地の退廃するのにも近い変化を想像してもらえると思う。
まあ、要するに二面性のある生地って思ってください。
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コットン100%で先ほどのコート同様に天然繊維なんですが、糸の細さが格段に違って、すごく「密」になってるのがわかってもらえるんじゃないかと思います。
さっきの泥染めコートと同倍率ですからね。
天然繊維で高密で毛羽も少ないので、そういう面持ちの洋服に仕上がるってワケですよ。
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荒木さんが完成後にハンドウォッシュしてるので、洗い特有の皺が入ってます。 Araki Yuuには共通するけど、手洗いオーケーの取り扱い絵表示なので、ラフに着て洗っても良いかも。
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こちらもボタンホールは手縫い。
表からはそうとは微塵も感じないけど。
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ボタンは黒塗りの真鍮です。
さっきも書いたけど、今回のこのコートは、シャツに近いような取り扱い方というか、度重なる洗濯を経ても、その先には光るものがあると思うんですよ。
そうしたときも見越して、次第にブラックコーティングが剥がれてくる黒塗りボタンでの製作を依頼してます。
だから、所有者次第で全然違ったものになってくると思いますよ。
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着た感じは、厚みのしっかり感じられるコットンのコートって感じです。
そのままだけど。
車移動が中心の人ならこの生地密度だし、冬もいけるかも。
セーターを中に着てたらだけど。
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一応、コットンの総裏です。
内側にもポケットついてるから、結構手ぶらで外出できちゃうかも。
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衿裏には、ジグザグのステッチは入りませんが、それでもグログランの生地がしっかりと機能して、衿がしっかりと立体的になってます。
あとは、縫製のテクニックかな。
Araki Yuuや山内の洋服を見てるとそれぞれ別の考え方ではあるけど、縫製という、超技術職の深層に触れることができますね。
着続けていくのには申し分ない洋服でしょう。
このシーズン、まずはコートから。
見てみてください。